
疫病や災厄を鎮める厄除け祈願の神様として、古くから信仰を集めてきた今宮神社。江戸時代、町人の娘として生まれながらも3代将軍・家光の側室となり、5代将軍・綱吉の生母として栄華を極めた「桂昌院(お玉)」と縁が深く、玉の輿の神社としても信仰されています。
この今宮神社の門前名物として有名なのが『あぶり餅』。今回紹介させていただく「かざりや」は、あぶり餅ひと筋に江戸の時代より脈々と続く老舗です。親指大にちぎったつきたての餅をきな粉とまぶし、竹串の先端に刺したものが店先であぶられ、参道に漂う香ばしいかおりに引き寄せられずにはいられません。
「餅をあぶる炭は、紀州の備長炭。これじゃなきゃ、こんな風に焼けないのよねぇ…」。と教えてくださったのは、9代目店主・川池慶子さん。30本以上の串を炭火の上に広げ、何でもないようにあぶりながらも、一本いっぽんの餅に均等に焼き目がついていくのは、さすがの職人技。よく見ると、餅は焼けても竹串はまったく焦げずきれいなままです。「竹串は2〜3日天日に干して、竹に含まれる油を抜いているんです。そうすると、ほら、串が焦げずに、しっかりと餅が焼けるでしょ」。
焦げ目がつくようにあぶった餅を、白味噌をベースにした秘伝のタレにくぐらせると、あぶり餅の完成。香ばしく焼けた餅にしっかりとタレが絡まり、にんまりと顔がほころぶおいしさです。ずっと昔から、あぶり餅を楽しみに多くの参拝者が今宮神社を訪れ、なんとも言えない甘さに味つけされたこの餅で家路につく鋭気を養ってきたのでしょう。また、今宮神社の氏子だったというお玉も、この餅を口にしたのかも…と想像の翼を広げると、ますますご利益がありそうな気さえしてきます。
春のやすらい祭の折には、あぶり餅を味わいながら遠い昔に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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「急須に入れたたっぷりのお茶と一緒にご用意するので、ゆるりと寛いでくださいね」と柔らかな笑顔で。 |