あるときは能面とともに人間の”喜怒哀楽“を表し、そしてまたあるときは舞踊に使われ、優雅な動きで”美“をも表現できる、涼をとる道具〈扇子〉。古代中国から伝わった団扇〈うちわ〉と異なり、扇子は日本で、しかも京都で考案されたことはあまり知られていない史実でしょう。
 平安時代に誕生した扇子は、現在でもその80%が京都で生産されています。「宮廷で記録用に使っていた木簡(細長い木の板)を綴り合わせた檜扇(ひおうぎ)が扇子の起源。”折り畳める“という扇子の機能は、この時すでに完成してしまったんです。千二百年以上経つ今も、しくみは同じですから(笑)。」東本願寺門前にある京扇子の老舗『京扇堂』六代目当主 齊木俊作さんが、扇子の興味深い歴史を教えてくださいました。
 扇面が上絵で飾られた檜扇は宮中女子の持ち物として広まり、やがて紙と竹からできた現在のカタチへと進化。武家文化の開花とともに、能や狂言、茶道、舞踊、儀式などの用途に発展していきました。
 約30工程にも及ぶ扇子作りは、一人の職人による仕事ではなく「(俵屋)宗達の時代から分業制。扇づくりの工房を持っていた宗達は、いわば絵付け専門の職人。
 仕事に専念できたから、あんなに立派な作品が残せたんです」。京扇堂では扇の品質を決める最終工程の仕上げ加工を、齊木さんの長男をはじめとする熟練職人の手で丹念に行っています。「日常生活で扇子を見かける風景は少なくなりましたけど、伝統ある日本文化のひとつ。大切に残していきたいし、これからももっといいものを作っていきたいですね」。七月の祇園祭に、八月の五山送り火と、これから季節の風物詩が続く古都の夏。和服や浴衣姿で出かけたい京の風情にはやはり、粋な扇子は欠かせません。

 

京扇堂 六代目当主 齊木俊作さん
学生時代は山登りに明け暮れたという齊木さん。現在は「自分が売っている扇子の奥深さを知りたくて」始めた能や謡がご趣味。





京扇堂
京都市下京区東洞院正面上ル筒金町46
TEL 075(371)4151