”絶景かな絶景かな。春の眺めはあたい千金とは小さなたとえ、この五右衛門が目からは万両…“。これは歌舞伎『楼門五三桐』で、南禅寺三門から望む春の夕暮れに、石川五右衛門が見得を切る有名な台詞。四季折々に美しい風情を奏でる京都東山の南禅寺。なかでも満開の桜が彩る春の景色は、このように昔から歌舞伎に描かれるほどの見事な美しさで、毎年多くの参拝客を魅了しています。そんな桜の木々をはじめ、広い境内すべての樹木と庭園の剪定管理を手がけるのが、創業嘉永年間の植彌加藤造園。「南禅寺の桜は、ピンクの花びらと木の根元に生える苔の緑色のバランスが絶妙。花だけでなく木々全体を眺めると、さらに趣が増しますよ」。南禅寺の木を日々見つめる庭師の加藤友規さんが、春の鑑賞ポイントを伝授してくださいました。境内のあらゆる風景を知り尽くす加藤さんが特に思い入れのある場所が、境内奥にある大玄関庭園。「この庭の敷石は、廃止された京都市電のレール下に敷いてあった軌道板石を再利用したもので、払い下げの抽選会で一番くじを当て、持ち帰ったもの。こんなエピソードを含め、子供の頃から祖父や親父に、庭仕事の面白さを毎日聞かされて育ちました」。だから何の迷いもなく、庭師の道に進めたそうです。「自分の人生に二百年ほしい」とおっしゃる加藤さん。「最初の五〇年で職人としての技術、次の五〇年で指導力を究め…と理想を突き詰めると、二〇〇年ぐらい必要なんです(笑)。それに何百年と生きる木の生涯にたずさわるのなら、せめて二〇〇年間ぐらいは責任をもって面倒見たいんですがねぇ」。熱き庭職人の愛情を一身に浴びて育つ南禅寺の桜。今年もその見頃が楽しみです。




植彌加藤造園 庭師 加藤友規さん
3兄弟の次男が加藤さん。社長のお兄さんは7代目。「祖父や親父が作った庭が、常に自分の目標です。本物を追求するためにも、やっぱり人生に200年ほしいですね(笑)」

植彌加藤造園
京都市左京区鹿ヶ谷西寺ノ前町18
TEL:075(771)3052